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「甘粕大尉」角田房子

甘粕大尉
関東大震災下に起きた大杉栄虐殺事件。その犯人として歴史に名を残す帝国陸軍憲兵大尉・甘粕正彦。その影響力は関東軍にもおよぶと恐れられた満洲での後半生は、敗戦後の自決によって終止符が打たれた。いまだ謎の多い大杉事件の真相とは?人間甘粕の心情とは?ぼう大な資料と証言をもとに、近代史の最暗部を生きた男の実像へとせまる。



毎年夏の時期に太平洋戦争関連の本を何冊かチョイスして読んでいる。
今年はまずこの1冊。

甘粕正彦は満洲建国に携わった人物というので興味を持っていた。また著者の角田房子氏は昨年読んだ「一死、大罪を謝す 陸軍大臣阿南惟幾」で好印象だった。取材や徹底したリサーチから人物について読み解く。推測で断定はせず俯瞰しているのが良いと思った。

関東大震災のどさくさに紛れて社会主義者の大杉栄と妻、子供を殺害したとされた甘粕。裁判で本人も認め有罪となったのだが、関係者の証言や政府の待遇などから甘粕は実行しておらず組織ぐるみの罪を被っただけなのでは?と推測される。著者は明言を避けているが、彼は罪を負って悪者になったのかなぁと。しかし真実は不明。

出獄後、妻を連れて逃げるようにフランスへ。現代とは違い、当時の日本人がフランスで暮らすには様々な苦労があったようだ。特に軍人気質の彼にフランスの自由な雰囲気が合わず家族で引きこもって陰鬱な日々を過ごしていた。せっかく子供が生まれたのに「目の先が暗くなる」妻に対しても「足手まとい」と言う始末。ひどい!

帰国後は満州に渡り、満州国の建国に奔走する。満州についてはどんな綺麗ごとを言っても、日本の植民地扱いだ。甘粕も現地の人々に寄り添ってはいたが、同等とは見なしていなかった。

そういえば、映画「ラスト・エンペラー」は満州国の皇帝の物語だ。甘粕役は坂本龍一!子供の頃に見たので大した記憶が残っていない。見直してみようかな。

戦時中の満州の様子も書かれている。敗戦が色濃くなり、甘粕も満州は滅びてしまうだろうと感じていたのだろうが、そんな中でも満州の文化レベルを向上させようと奮闘する。その方法が有無を言わさぬ強引さで、周りがドン引きするくらい金にものをいわせまでも達成させようと突き進む。

戦争の真っただ中で演奏会をやったり映画を上映したりしているのは違和感もあるが、満州が日本の所有である間に何か形を残しておきたかったのだろう。

共感や同情したくなるような人物ではないのだが、異常ともいえる気配りや教養を持っており、彼のことを慕う人々も多数いた。天皇を崇拝し国の為に身を捧げる激熱な男なのは、当時としては珍しくはなかっただろうが、その為に一切の言い訳をせず汚名を負いながらも真っ直ぐでいた姿は胸を打つ。

興味深いエピソードを1つ。
炭にする木が必要となり、北京の街路樹を伐採する命令が下ったのだが必死で止めた。理由は、こんなに美しい街路樹を伐採したら、日本が野蛮だと軽蔑されてしまう。それを防ぐためだそう。

家族にはずいぶんと冷たかったようだ。特に妻へは可哀想過ぎるエピソードばかりだ。留守がちなのはもちろん、愛人もいたようだ。最後は日本降伏の5日後に青酸カリで自殺を図るのだが、いくつか残されている遺書に妻宛のものが1つもない。しかし彼女は幸せだったと言っていたそうだ。

表紙の写真からも「ザ・軍人」的な厳しい人物だったのだろうと推測される。
違う時代に生まれていたら、別の活躍ができたのではないかなぁと思う。

良くも悪くも表舞台で活躍した人物だけでなく、悪者とされてしまった人物や、歴史に埋もれてしまった人物のことを知るのは意義深いことだ。これからも色々な側面から歴史を学びたいと思っている。

テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

「目下の恋人」辻仁成

目下の恋人
愛と恋の短編10作が収録されている。
辻仁成は好きなんだけど、こればっかりは辛口で。
表題作以外は全く響かないが短編集なのでサクッと読める。


そんな中で印象に残った作品をご紹介。

目下の恋人
表題作。
ネネの彼氏はミュージシャンを目指しているヒムロ。無職で愛想も悪く、ネネのことを「目下の恋人」とみんなに紹介する。彼の気持ちに不満が募るネネ。

ある時、祖父母の家に行くというヒムロに強引に付いていくネネ。田舎の祖父母に迎えられた2人。ここでもネネのことを「目下の恋人」と紹介する。

ところが、祖父も祖母のことを「目下の恋人」と呼び、事実婚であることが判明。
ヒムロの本当の気持ちは…


君と僕のあいだにある
2001.9.11、ニューヨークのテロ事件が起きたまさにその時、妻から離婚の話を切り出された主人公の小説家。
辻仁成は2000年に南果歩と離婚。2002年に中山美穂と再婚している。実話も含まれてる?それも知ったうえで読むと興味深いかも。


好青年
タイで海外勤務中の豊は日本に婚約者がいるにもかかわらず、謎の美女・沓子と出会い夢中になってしまう。それはタイに住む関係者の知るところとなるのだが、彼女と会う事を止められない。やがて結婚式の日が近づき…

『サヨナライツカ』の原点とされる小説。


これ以降の作品は不倫、略奪の気分が悪いものばかり。女の奔放さに嫌気がさす。夫と子供を捨てて次から次へと男を乗り換え、自分の欲のままに生きたり、怪しげな男に魅了されてすべてを委ねたあげく捨てられたり。小説とはいえ、女をバカにしているのか!と言いたくなる不愉快。

「女性自身」に掲載されていた作品がいくつかあるので、それも原因かもしれない。


収録作品
『優しい目尻』『目下の恋人』『君と僕のあいだにある』『バッドカンパニー』『好青年』『偽りの微笑み』『青空放し飼い』『裸の王様』『世界の果て』『愛という名の報告』

テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

「人は思い出にのみ嫉妬する」辻仁成

人は思い出にのみ嫉妬する
恋愛小説は好んで読まない。
くっ付いたり離れたり、病気になったり死んだり…
勝手にやってろ!と思ってしまう(好きな方ゴメンナサイ)

しかし辻仁成の書く小説は別だ。
理屈じゃなく、辻仁成だから読む。

恋人や夫婦間、あるいは友達同士でも嫉妬することはある。
そんな嫉妬に苦しむ切ない物語だ。


栞は恋人の戸田の中に、元カノの周愛麗が生き続けていることに嫉妬している。
周愛麗は栞の親友でもあったが、交通事故で突然亡くなってしまったのだ。
後釜に座るようになった栞だが、戸田の事が好きになればなるほど嫉妬に苦しむ。
自身の心の傷も癒えていないのに、栞の気持ちを重く感じてしまう戸田。
愛し合っているのに苦しむ2人。

そして戸田から衝撃の告白。
周愛麗は事故ではなく、戸田の永遠の思い出になるために自殺したというのだ。
ショックを受けた栞。

栞は2人の関係が苦しくなり、同居していた家を飛び出す。
向かった先は中国。周愛麗の故郷でもある国だ。
戸田の事を忘れる為、忙しく働いていた栞の前に年下の安東が現れる。
付き合ってる訳ではないが、いつも一緒に過ごすようになる2人。
安東もまた、栞の中に戸田がいる事に嫉妬する。

そこへ栞を探してやってきた戸田が現れる。

ところが戸田は交通事故にあい植物人間になってしまう。
看病に明け暮れ弱ってゆく栞。
そんな栞を強引に自分の元に戻そうとする安東。

嫉妬が輪廻のようにグルグル巡ってゆく。
なのに重く狂った小説ではなく、美しくひたすら静かだ。
淡々と静かに迫ってくる。
そして少し希望の見える未来に向かってゆくようなラスト…

かと思いきや 後書き。

実話だったのか?フィクションなのか?
測りかねてしまう後書き。
これはなくても良かったんじゃないかな~

表紙はピカソ。
ピカソ好きなのに気付かなかった!

テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

「ハロー、アメリカ」 J・G・バラード

ハロー、アメリカ
本書は「22世紀のコロンブス」を解題し文庫化したもの。新訳ではない。
「ハロー、アメリカ」なんてポップなタイトルになってしまったが、読んでみるとなかなか相応しいタイトルかもしれない。

21世紀のアメリカでエネルギー資源が枯渇。石油が取り尽くされ、自動車産業の崩壊、輸送手段の断絶、電気や食料も配給制になり生活が維持できずアメリカ社会が崩壊。人々はヨーロッパなどへ移住した。

それから1世紀経過し、イギリスの探検隊が蒸気船でニューヨークに上陸する(つまり22世紀が舞台)。煌めく黄金のように見えたのは砂!砂が太陽に照らされて輝いていたのだ。砂漠化した街。高層ビル群が砂に埋もれている景色に嫌でも「ヴァーミリオンサンズ」シリーズを思い起こしてしまう。

一筋縄ではいかない訳ありの登場人物だらけ。サバイブしながら西へ進む。秩序、コミュニティーがジワジワ崩壊していくのはバラードの得意とするところ。探検隊は灼熱の砂漠を命からがら越えて、ラスベガスに到着。そこで出会ったのは大統領を名乗るマンソンと統率された子供たち。インフラを整え、武器を揃えて生活していた。

探検隊の一人 主人公のウェインは副大統領に任命され、マンソン大統領らと新しいアメリカを築いていこうとするのだが…。

歴代大統領たちのロボット、キラキラ輝くガラスの飛行機、ラスベガスのバーやカジノ、近隣にはジャングルがあって麒麟までいる。そこに新しい探検隊がやってきてドンパチ。後半はカオス…。

ジョークが過ぎる部分もあり突っ込みどころも満載なのだが、夢を具現化したダリの絵画のようにシュールさが美しさになっていくのだ。読んでいて恍惚としてしまう。

本書に限らずバラードの作品は、深読みしたり鋭く考察しているレビューが多いが、感じたままの魅力を楽しめば良いと思う。難しく考えないで読んでね。


前回の書評で「オルタード・カーボン」を取り上げたのだが、こちらもNetflixで映像化が決まったそう。リドリー・スコット監督。どんな世界観に仕上げてくれるのか期待が高まる!

テーマ : SF小説
ジャンル : 本・雑誌

「オルタード・カーボン」

オルタード・カーボン
Netflixでドラマ化された!とニュースを聞いて、心躍ったSFファンは少なくないだろう。やっとNetflixに登録してシーズン1(全10話)を視聴した。

いや~期待以上の仕上がりで大満足。暴力、エロ、グロ、ビックリするくらい規制なし。スタイリッシュで映像も素晴らしい。ブレードランナー好きにもおススメ。(余談だが、私はディックが大好き過ぎでブレードランナーは認めない。)


原作との相違はどうだろう?と思い、13年ぶりに再読。原作に出てない登場人物がいて、それにより原作とドラマのズレも生じるが大筋は一緒。(前回の感想こちら

前半はかなり原作通り。読んでいるとドラマで見た映像が目に浮かぶので理解しやすい分、ドラマのイメージに引っ張られてしまうのが難点。銃撃戦が激し過ぎて血まみれで臓器出ちゃってるし、セックスシーンもヌードもモロだし、バーチャル尋問なんてのも有り。子供と一緒には見られない。映画じゃなくても ここまでの映像クオリティーでハチャメチャしたものが作れるんだ!?と驚き。今後、映像化不可能と言われたSF作品などのドラマ化がさらに増えるかもね。


ストーリーは、27世紀が舞台。人間の精神はデジタル化され、体内に埋め込まれたメモリー・スタックに保存されている。肉体が劣化したり破損しても、スタックさえあれば新しい肉体にスリーブ(転送)し、永遠に生きる事が出来る不老不死が実現した世界。しかし、スタックが破壊されてしまうと生き返れない。メトと呼ばれるお金持ちはバックアップを取っているので、スタックが破壊されても大丈夫!

主人公のタケシ・コヴァッチはハーランズ・ワールドという惑星出身の元エンヴォイ・コーズ。特殊部隊の超エリート兵士だ。無敵の殺人兵器だけど、女に弱く、酒&タバコを嗜みながら捜査。ちょっと怪我をしてもヘッチャラさ。ハードボイルドだ!

コバッチは犯罪者として保管刑を受けていたが、250年ぶりに地球のメト、バンクロフトにより新たな肉体で目覚める。バンクロフト殺害事件の調査をして欲しいとの依頼を受ける事に。拳銃自殺とされた事件が殺人じゃないか?とバンクロフトが疑念を持っているのだ。

コバッチが捜査を開始すると、命を狙われたり、警察官の女性オルテガに付きまとわれたり、バンクロフトの奥さんに誘惑されたり…。サイバーパンクな舞台で、ハードボイルドなストーリ!


タケシ・コヴァッチ・シリーズとして3部作となる『ブロークン・エンジェル』『ウォークン・フュアリーズ』が続編としてあるのだが、1作目がヒットして期待値が上がってしまったのもあるかなぁ…続編はちょっとトーンダウン。今読んだらまた違うかもしれないが。作者のリチャード・モーガンは、これ以降目立った活躍もない。

テーマ : SF小説
ジャンル : 本・雑誌

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    P・K・ディック、J・G・バラード、ウィリアム・ギブソン、小松左京、ポール・オースター、F・カフカ、安部公房 etc…
    【好きな漫画家】
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