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「責任 ラバウルの将軍今村均」角田 房子

責任 ラバウルの将軍今村均
角田房子氏の作品を読むのは3冊目。
去年は「一死、大罪を謝す 陸軍大臣阿南惟幾」、先月には「甘粕大尉」を読んだが、どれも一人の人物にスポットを当て、入念に行われた取材に基づき深く考察した名作だ。本著も豊かな筆致によりドラマを見ているかのような臨場感があった。


5章の構成。ラバウル戦犯収容所
太平洋戦争勃発まで
太平洋戦争開戦
ジャワ裁判始まる
晩年

ラバウルの収容所は戦犯となった者たちが収容されていた。

「戦犯」と聞くと「A級戦犯」や靖国神社に合祀されている戦犯の事などを思い浮かべる人が多いだろうか。戦地となった海外でも戦犯として不当な裁判で処刑された者が多数いた。当時のラバウルはオーストラリア軍の支配下にあり、戦時中の外国人労務者に対する罪として日本人が裁かれていた。確かに手荒な行動や虐待はあったかもしれない。しかしロクに反論も出来ず、確たる証拠もないまま死刑を宣告されるのは敗戦国に対する嫌がらせだ。憤りを感じた。

今村も裁判で死刑を宣告されそうになるが、周囲の助けもあり免れた。


今村が統率していたラバウルには10万人もの兵士がいた。今村の指示により、長期戦に備えて地下要塞を作り、自給自足で田畑を耕し、訓練し秩序を守って生活していた。この戦略により餓死者を減らし多くの者が生きながらえた。


今村は聖将、仁将と呼ばれていた。聖書と歎異抄(仏教書)を愛読していたが、信者ではなかった。阿南大将のような豪快さや男気はなかったものの、人格者であり知性で多くの部下を救った。部下に対する責任感は異常ともいえるほどで、終戦後も続けられた。

釈放され日本に戻ってからも、面識のない部下でも困っていると訪ねてきたら疑いもせず援助した。そして遺族の為にも働いた。今村は何冊も著書を執筆しているのだが、それはわずかな恩給生活の中で部下や遺族を助けるためにお金が必要だったからだそうだ。

大将まで上り詰めた人が、自分の事よりも人の為に尽くす情の深さ、優しさに大変感動した。「今村均」で検索すると、まん丸の優しいお顏の写真が表示される。人柄が現れている。


著者が今村と縁のあるたくさんの方たちに取材を行っているのだが、彼らが存命している間にインタビュー出来たのは何と貴重なことか。また今村の足跡を辿って現地に取材にも行っている。それにより失われずにいた歴史の資料が多数あるはずだ。

著者は手放しで今村を絶賛している訳ではない。戦争に加担していた責任は免れない。死ぬと分かっていても部下に命令を出すこともあっただろう。軍隊から逃れる事はせず、指揮していた責任は大いにある。


今村とは別のエピソードで心に響いた話しをご紹介。
ラバウルのあるニューブリテン島の村落の戦闘で、A将校、B将校が敵前逃亡で処刑された。証言を探ると悲しみに溢れた処刑だった事が分かった。

形勢が不利になると玉砕しろ、自決しろと言われるが誰もが出来るわけではない。飢えや疲労の極限状態で、家に帰りたい、死にたくないと思うのは当然だ。逃げた2人に対し、上官は処刑ではなく助けてやりたいと思い、もう一度戦闘に向かうよう指示するが、彼らの気持ちは奮い立たなかった。上官は彼らの部下に示しがつかず士気に関わるため、断腸の思いで自決させたという。

こんな戦争はもう二度と起きて欲しくない。
今村のような人物も別の時代であれば、もっと違った活躍が出来ただろうと思う。
非常に読み応えのある重たい一冊だった。

テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

「神の小屋」ウィリアム・ポール・ヤング

神の小屋
私の両親はクリスチャン(プロテスタント)。子供の頃は半ば強制的に教会に連れて行かれていた。しかし、20歳も過ぎると就職し、一人暮らしも始めて教会から次第に離れていった。それでも幼い頃に学んだことは染みついている。今でも讃美歌は歌えるし、聖書の教えも心の奥底に残っている。

この本は、父親から読んでみるようにとプレゼントされた。正直、父から贈られるキリスト教関係の本は心に響かず、良くある宗教的な教えが多くてうんざりしてしまう。申し訳ないが読まずに本棚に直行がほとんど。教会から離れた私を心配してくれているのは分かるのだが…。

これを読もうと思ったのは、帯に興味が沸いたためだ。「全世界39カ国1800万人が涙した感動のロングセラー小説」とある。ググってみたところ、映画化もされており、主にアメリカで良く読まれているようだ。

「平凡な日常を送る50代の男性、マック。その最愛の末娘ミッシーが休日のキャンプ中に誘拐され、数時間後、オレゴンの荒野の廃れた小屋で彼女の血に染まったドレスが発見される。残されたテントウムシのピンから連続殺人犯の凶行であることは間違いなかった。四年後、ミッシーの遺体さえ見つけられず「大いなる嘆き」から抜け出すことができないマックへ、「あの小屋へ来ないか」という神様からと思われる奇妙な招待状が届く。悩んだあげくにマックは意を決し、一人でその小屋に向かう。
そこで待っていたのは、人生を変える「神との体験」だった……。」


どうして神様は私を苦しめるのか、そんな神様を信じるなんて無理だ!と思う事は、クリスチャンではなくても多くの人が経験していると思う。マックも、どうして神様は自分の娘を守ってくれなかったのか、起こると分かっていた事件を防いでくれなかったのかと悩み憤る。

マックが訪れた小屋で、神様を名乗る3人の男女と出会う。そこで神様がマックの悲しみや苦しみを解きほぐしていく。その内容は聖書を読んだことがあれば分かりやすく入ってくる教えでもあるが、まるでファンタジー小説を読んでいるかのような…押しつけがなく優しい気持ちになれるものだった。


実話なの?と不思議に思ったのだが、
著者は「フィクションの中に真理が込められている」と言う。

これを読んで何か目覚めた!人生が変わった!という人もいるだろうし、認めたくないけど私もこの本に魅力を感じたのは確かだ。神様の怖くて堅苦しいイメージが壊されて親しみを感じるような…不思議な気持ち。神様に「パパ!」なんて話しかけられる?こんな神様だったら信じるかも?

ただ、キリスト教徒が多数いる欧米と違って、日本人が受け入れるのは難しい部分もあるかもしれない。でもキリスト教に興味がある人には是非お勧めしたい一冊だ。どのように感じたか感想を聞いてみたい。

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「いつか、一緒にパリに行こう」辻仁成

いつか、一緒にパリに行こう
パリに住んでいる辻仁成によるガイドブック。
とはいえ、発売されてから既に10年以上経過しているので、古い情報もあるだろうし、何より当時は奥さまがいらっしゃったので…

私はフランスに旅行に行ったこともないし行く予定もない。憧れはあるけど。
おススメの星付きレストランや隠れ家レストランを紹介されても…
どうせお高いんでしょ?

近所のスーパーや本屋さん、素敵なところに住んでいらっしゃるのね。
パリで車の運転をするのは危険、と言われたら、運転してみたくなる辻さん。
ホームパーティーに招かれた楽しい様子なども、別世界のような感じ。

最近の暮らしぶりは良く知らないのだけれど、今同じような本を書いたらまた違うものになるだろう。
今のだったら読みたいけど、既に出版されてるかな?

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「あの戦争は何だったのか―大人のための歴史教科書」 保阪 正康

あの戦争は何だったのか―大人のための歴史教科書
太平洋戦争について関心を持つようになったのはいつ頃だったろうか。
何故、戦争が始まったのか、誰のせいなのか知りたいと思った。

私の学生時代には、近代史はサラリと教科書で学ぶ程度だった。
テストに出るから勉強するというくらいの関心。それ以上知りたいとも思わなかった。
太平洋戦争で日本は原爆を落とされた。日本は可哀想な国だ。
戦争はいけない、過ちは繰り返してはいけないと刷り込まれてきた。

「大人のための歴史教科書」とあるが、中学生くらいから読めるのではないだろうか。
学生時代にこの本に出会いたかった。

あの戦争は何であったのか、どうして始まって、どうして終わったのか
分かりやすく書かれている。

まず、一章に書かれていた、
日本軍のメカニズム、軍国主義とは、軍部とは。
海軍と陸軍の違いについて、組織については知らない事も多く勉強になった。

真珠湾の先制攻撃で火ぶたを切った戦いだが、瞬く間に劣勢になっていく。
何をして「勝利」「戦争終結」とするのか目標がない。
陸軍と海軍の対立もあり、ろくに作戦も立てられない。
アメリカの戦略の緻密さと比べて、なんとお粗末なことか。情けなくなってくる。

最後の章に書かれていた
8/15は終戦記念日ではなく、ポツダム宣言受諾の意を表した日。
9/2にミズーリ号で降伏文書に署名した日が戦争が終わった日。
終戦ではなく、敗戦という意識。
平和ボケし過ぎている日本人は、歴史としての戦争について無知すぎる。
もっと知らなくてはいけないと感じた。

非常に読みやすかったが、その分物足りなさを感じた。
まさに「歴史教科書」なので、興味を感じた人物やエピソードは自分で調べる事が大事。
あと、巻末に参考にした出典が掲載されていなかった。
信用していない訳ではないが、参考文書などを見るのも楽しみなので少し残念だった。

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「蝶」 皆川博子


皆川博子さん、以前から気になる作家さんだったのだが読むきっかけがなく…
本が好き!」で、こちらの短編集を薦めてもらい購入。

全8編。詩や句が添えられおり、太平洋戦争前後が舞台で昭和の情景が描かれている。

何だか懐かしいような雰囲気に浸ったかと思うと、ヒヤッと背筋が寒くなったり、靄のような掴みどころのないエロスに囚われたり…何でしょう。この初めての感覚。

感情を抑えた静かな語り口調。とても静か。
崖から突き落とされても自分が死んだことに気が付かないような静けさ。

一気に読むのが惜しくて、1編ずつ味わって読んだ。


・空の色さえ
両親の家に置いてもらえず、祖母宅に度々預けられていた私。
二階に上がることは禁止されていた。ある日、押入れの隙間から二階を覗くと男がいた。男が何者なのか、なぜ二階にいるのか次第に明らかになっていくのだが、それと同時に家族と共に暮らす私と二階にいる私の視点に分かれる。彼女はどこに存在しているのか。

「空の色さえ陽気です 時は楽しい五月です」
ポオル・フォルの詩が耳に心地よく残る。


・蝶
インパールから復員してきた男が自宅に戻ると、妻は男と暮らしていた。隠し持っていた拳銃で2人を撃ち、出所後は小豆相場で稼ぎ北の地へ。ある日、映画のロケ隊がやってきたのだが…

戦争で傷ついた男の虚しさを埋めるものは拳銃だけだったのか。


・艀
桟橋で出会った男が書いたという詩集をもらった少女。入水自殺事件?などあり、彼の親は身寄りのない少女を施設に入れた。少女は成長し、彼の消息を探るのだが…
幼少の頃の記憶で、重要なことだったはずなのに記憶が欠落していることってあるよなぁと。


・想ひ出すなよ
少女4人、仲良しのようで子供同士の関係って複雑。他の子に嫌われないように仲良しを演じている居心地の悪さ。

隣家に住む友人宅の離れに住んでいるお姉さん。沢山の本を持っていて、それに惹かれて離れに通い始める私。次第に他の3人と疎遠になり、何故一緒に遊ばないのかと問い詰められ…

自分の子供の頃も親友同士だよね!なんて言っててずっと一緒だったのに、クラスが変わると口もきかなくなったり、仲良しグループな筈なのにいじめられたりしたっけ。4人の少女たちはその後どうなったのだろう。


・妙に清らの
父親が医者の大家族。同居している叔父は眼帯をしている。叔父の元に嫁いできた叔母は顏に痘痕があるが魅力的な女性。

少年が覗き見てしまった叔父と看護婦の情事。看護婦は眼帯をしていた目から眼球を舌で取り出す。ラストでは叔母の元に横たわる叔父のポッカリ空いた目に紫陽花。美しい狂気を感じる一枚の絵画のようだ。


・竜騎兵は近づけリ
夏に過ごしていた海辺の隣家にいた少年と親しくなる。2階には音楽を奏でる男たちがいた。珍しい楽器を鳴らしていたので良く覚えている。

ある日、少年と船で沖にいった。弟が海に落ちたのを助けようと飛び込んだ少年に、2階にいた男たちが絡みつく…

これは怖かった。だがホラーのようで幻想的な雰囲気もあるので、怖いけど余韻が残る。


・幻燈
一番好きな作品。

奉公先の奥様と私。旦那様は愛人宅に入り浸って留守がち。
奥様に気に入られた私は嫁に行くこともなく、奥様に仕える日々。

やがて戦争が激しさを増し、庭に避難用の大きな穴を掘るが奥様も旦那様も爆弾で死んでしまった。生き残った私。

奥様と私の官能的な遊び。しかし戦争ですべてが消えてしまう。儚く美しいのに残酷。


・遺し文
これも戦争により狂わされた女の話。
伯父の家で世話になっている少年。
伯父の恩人の孫である女性が上海で夫が殺され心に傷を負って帰国。離れで療養していた。親族から見放されたのを伯父が引き取ったのだ。

彼女の哀しみに胸が張り裂けそうになる。


また一人、好きな作家ができた。
別の作品も読んでみたい。

テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

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プロフィール

mari

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    P・K・ディック、J・G・バラード、ウィリアム・ギブソン、小松左京、ポール・オースター、F・カフカ、安部公房 etc…
    【好きな漫画家】
    ひろき真冬、小畑健、ゆでたまご、浦沢直樹、松本零士、手塚治虫、山根和俊、etc…

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