「紙の動物園」ケン・リュウ

紙の動物園
中国系アメリカ人であるケン・リュウ氏。
少し前から話題になっていたので興味があった。

先日、SFアンソロジー「スタートボタンを押してください」に収録されていた「時計仕掛けの兵隊」で初めて彼の作品に触れた。感触が良かったので短編集を購入。

表題作の「紙の動物園」でグッときた!と思いきや、読み進むにつれてテンションだだ下がり…。過去のアジアの紛争や人種差別などが物語に盛り込まれおり、それ自体は興味深いテーマではあるのだけれど、SFとして娯楽として楽しもうと思っていた読書だったので暗い気持ちになってしまった。SFじゃないよね?と思う作品もあったが、期待し過ぎたかな?

中国や台湾、日本などが出てくるのは、親近感を感じる部分と過去の傷をほじくり返されるような痛みが伴う。彼なりの問題提起でもあるのかしら。


「紙の動物園」

父はアメリカ人、母は父が買った中国人、そして息子。
泣き虫だった彼に母は包装紙で折り紙を作ってくれた。母が折り紙に命を吹き込むと、魔法のように紙の動物たちが動きだすのだ。

しかし、年頃にもなると母親の面影がある自分の姿や、アメリカでの暮らしに馴染めない母にイラつき、しだいに距離を置くようになる。関係が修復しないまま母が亡くなり、仕舞われていた折り紙を取りだしたところ…

最後の仕掛けにやられた。
いつの時代もどこの国でも母が子を思う気持ちは変わらないのだね。


「月へ」
木を登って月に向かう男が出てきてお伽話かと思いきや、中国人の難民申請を担当する女性弁護士が登場。中国人たちは申請が通るように可哀そうな経歴を創作する。月をアメリカに例えているのか。舌がザラザラするような読感。


「結縄」

結縄(けつじょう)とは、縄の結び方で文字や数字などを記録する古代からの記録方法。
それをSFとして利用するアイディアは面白いと思ったが、山奥でヒッソリと暮らす人々が先進国の心無い人たちに振り回され利用され…良く行われていることなのかも知れないけど、読んでいい気分はしない。


「太平洋横断海底トンネル小史」
太平洋戦争が起こらなかった「if」の物語。
アジアとアメリカを結ぶ海底トンネル!これはロマンがあっていいわ~。トンネル工事の為、人々が動員され経済効果も抜群!戦争も回避されたが、その裏には隠ぺいされた事件があった…


「心智五行」
この短編集の中で一番SFらしい。
宇宙船の事故で生き残ってしまった宇宙飛行士の女性。ある惑星に不時着すると原始的な生活をする先住民がいた。無菌で生きていた彼女はバクテリアや菌に侵されて寝込んでしまう。青年に看病をしてもらい、回復し、次第に心を通わせていく。

五行(木・火・土・金・水)の治療とか、バクテリアが喜怒哀楽に影響するというのも興味深い。色々詰まってる


「愛のアルゴリズム」
子供を失った女性がAIを搭載した人形の製作に奮闘しているうちに、人間もAIと同じようにアルゴリズムに従っているのではないか?どこに違いがあるのか?と疑問を持つようになり…。

テッドチャンにも似たような短編なかったっけ?と思ったら、著者注意書きにテッドチャンに影響を受けたと書かれていた。


「文字占い師」
台湾に引っ越してきたアメリカ人家族。父は情報部員。娘は学校でイジメにあっており、新しい生活に馴染めていない。そんな中で出会った文字占い師の老人と少年と親しくなるのだが…。

最後の作品で暗い穴に落とされた気分。救いのない物語は重い余韻に引きずられるので、覚悟した時にしか読めないよ。

同じ中国系で比べられることが多いであろうテッドチャンは、クールな中にも温かな希望の光が感じられるのだが、ケンリュウはこの短編集に限っての感想だけれど、暗くて重くてシンドイ。が、もう少し読んでみたいと思う魅力もある。

テーマ : SF小説
ジャンル : 本・雑誌

「太陽の黄金の林檎」レイ ブラッドベリ

太陽の黄金の林檎
短編22作品が収録されている。
初めてブラッドベリを読んだのは「華氏451度」だったので、最初はSF専業作家だと思っていた。何冊か読むうちに、SFだけでなくファンタジー、ホラーなどジャンルに拘らない作品を書く作家だと知った。この短編集はそんなブラッドベリの魅力がたっぷり詰まった1冊。


印象に残った作品を紹介。


「霧笛」
燈台からの霧笛の音を仲間の声だと思い毎年やってくる恐竜。百万年もの間、孤独に生きてきた太古の生き残りだ。ところが霧笛が止まってしまい怒り狂う恐竜。何でもないような短い物語なのに胸を打たれる。


「四月の魔女」
少女のセシーは自分の意識を人間や動物、植物にまで移す能力を持っている魔女。セシーは他の作品でも登場するので愛着のあるキャラクター。セシーは恋をしたいお年頃で、アンという娘に乗り移りトムとデートする。トムが好きなのはアンであって、セシーじゃない。私を見て!!と切望するが思いは届かず…。


「荒野」
明日、火星に向かう女性。彼氏が火星におり、結婚するために地球を旅立つのだ。彼に会いたい気持ちと火星での生活の不安な気持ち…。その昔、男たちは新天地を求め旅立ち、女たちは後から追いかけていった。いつの時代も変わらないのだ。

火星にいる彼と電話するシーンがあるのだが、声が途切れて会話にならない。火星と電話??なんて言っちゃいけない。これがロマンティックなのだ。


「鉢の底の果物」
知り合いを殺してしまい、証拠隠滅の為に家中の指紋を拭きまくる男の話。拭き過ぎて家中ピカピカに(笑)。男が追いつめられていく様を描くのが上手い。


「二度と見えない」
メキシコからやってきてアメリカで真面目に働いていた男が強制送還されることになった。下宿先のおかみさんとの別れのシーン。英語が得意ではない男「あなたと二度と見えない」。彼が去ったあと、その言葉の意味を理解し、涙するおかみさん…。

「ぬいとり」
刺繍をしている女性たち。何やら時間を気にしている様子。何気ない日常の一コマと思いきや、終末が迫っている話し。限られた文字数の中にグッとドラマが詰まっている。


「サウンド・オブ・サンダー」
映画の原作。以前のタイトルは「雷のような音」だった。ザ・SF。
タイムマシンで過去へ行き、恐竜を狩りに行くツアー会社。歴史を変えてはいけないので、決められたこと以外はしてはいけない厳しい規則がある。死ぬ予定の恐竜しか撃ってはいけない。

一人の男が恐怖により決められた道を外れてしまい、一匹の蝶を踏み殺してしまう。蝶一匹くらい…で、未来が変わってしまう。非SFを読んだあとでこの作品を読むと、ブラッドベリの才能の幅広さに驚くばかりだ。


「山のあなたに」
読み書きの出来ない夫人は、山の向こうの世界に憧れを抱いている。夏休みにやってきた甥っ子に手紙を書いて欲しいとせがむのだが、知り合いがいない…。そこでカタログなどを請求することに。そして次々に届く郵便物に歓喜する夫人。

しかし、夏が終わり甥っ子が帰ってしまった。郵便物が届いても文章が読めない。届く郵便物も次第に減っていく…。とっても切ないお話し。そういえば子供の頃、郵便屋さんが来るのが楽しみだったなぁ。


「発電所」
O・ヘンリー賞受賞作。あとから余韻が滲みてくる。
母親が危篤との知らせを受け、夫と母のもとへ向かう女性。実家までとても遠い。間に合わないかもしれない。気持ちが暗く不安定になり、くたびれてしまうのはとても良く分かる。

嵐を避けるために通りがかった発電所に泊まることに。そこでの一夜が彼女を変えてしまう。何が起きたのか?発電所内の音に耳を傾けているうちに、神がかったような夢を見ているかのような不思議な体験をする。爽快感と幸福感にこちらまで包まれるような気分に。


「ごみ屋」
ごみ収集の仕事をしている男は、自分の仕事に誇りを持っている。ところがある日、もう仕事を辞めたいという。街に原爆が落ちたら無線が入り、死体を集めなくてはならないというのだ。哀しみが覆いかぶさってくるようだ。


「歓迎と別離」
永遠に12歳の少年の物語。似たような成長出来ない少年の小説や漫画もあるが、切なさの中に力強い希望を見出すような描き方が出来るのはブラッドベリならでは。

見た目が子供の為に仕事が出来ない。もちろん両親もいない。そこで生きていく為の仕事を発見した。子供のいない人たちの生活に入り込み、彼らを幸せにするお仕事。しかし数年経ち、周囲の子供と比べて成長しない姿を不審がられるようになると、サヨナラしなくてはならない。その繰り返しの人生。苦し過ぎる。


「太陽の黄金の林檎」
まずタイトルが印象的で美しい。SFというよりお伽話。
地球のエネルギー資源が不足してしまい、代替エネルギーとして太陽の一部を取りに行くという話し。宇宙船で太陽に近づき採取するのだが、まともな感性で読むと非科学的で馬鹿じゃないのみたいな事になってしまう。暑い!熱い!どころのレベルじゃないでしょう!と。

SFを期待して「火星年代記」を初めて読んだ時にも戸惑ったが、ブラッドベリの本質を知るようになってから再読したら、何と美しい物語なのだろう!と感じ方が全く変わってしまった。この作品もそう。

彼の作品を読めば読むほど 奥深さを知り好きになる。

テーマ : SF小説
ジャンル : 本・雑誌

「スタートボタンを押してください (ゲームSF傑作選)」

スタートボタンを押してください (ゲームSF傑作選)
アンソロジーの良いところは、読んだことのない作家との出会いやバラエティーに富んだ様々な作品を1冊で楽しめるところだ。

ここでの「ゲーム」はTVゲーム、ネットゲーム。テーマがテーマなだけに巨匠やベテラン作家でなく、若い(といっても40代前後の)未翻訳のフレッシュな作家さん達が多い。ゲームに親しみがある方が、物語に入りやすいかもしれない。


12編の短編が収められている。気に入った作品をご紹介。

「リスポーン」桜坂洋
桜坂洋は「All You Need Is Kill」が漫画化、映画化されたのをきっかけに知ったのだが、作品を読んだのは初めて。

深夜、牛丼チェーン店で勤務していた男が強盗に殺されてしまうところから始まる。死んだはずの男の意識が強盗に移ってしまう。その後も殺される度に男の意識だけが移動してゆく…

日本人作家という安心感もあるが、全作品読み終わって振り返ると異質さも感じる作品。

「1アップ」ホリー・ブラック
ネットゲームの仲間が死んだことをきっかけに、彼の葬儀で初めて顔を合わせた3人。部屋を訪れると、彼の作ったテキストアドベンチャーゲームを発見する。プレイしながら死の真相を探り出す。謎解きのようなスリリングさもあり楽しめた。

「NPC」チャールズ・ユウ
NPCとはノンプレイヤーキャラクター。プレイヤーが操作しないキャラクターのことだ。資源採集を行うだけのNPC男が主人公。注目されない地味なキャラの視点はNPCが分かる人にはニヤリとしてしまうだろう。

「リコイル!」ミッキー・ニールソン
FPS(シューティングゲーム)ファンの男が主人公。友人のコネを使い、深夜にゲーム開発会社でテスト版のゲームをしていると 強盗?武器を持った不審な男たちがやってきて…。ゲームをプレイしているみたいに、いつ見つかるか、撃たれるか?!ドキドキハラハラさせられた。

「キャラクター選択」ヒュー・ハウイー
夫が仕事に出ている間、こっそりとゲームをしている妻。ある日、早く帰宅した夫に見つかってしまうが、咎められるどころか妻がゲームに興味を持ってくれたことに喜ぶ夫。FPSゲームなので撃ちまくって得点を稼ぎ、目的の場所まで移動して任務を完了させるのだが、妻のやり方は違っていた。彼女は大した武器を装備せず、代わりに大量の水を運んだ先は…。こういうゲームの楽しみ方って好き!共感できる人もいるのではないだろうか。

「ツウォリア」アンディ・ウィアー
「火星の人」のアンディ・ウィアーのショートショート。プログラムが自我を持ち、世の中を良くしたいと言い出した。主人公を「主さん」、自分のことを「漏れ」と呼ぶ。ウィアーらしい軽快さとユーモアにニヤニヤが止まらない。

「時計仕掛けの兵隊」ケン・リュウ
以前から興味のあったケン・リュウ。読むのを楽しみにしていた。
バウンティ・ハンターの女が、捕えた男が作ったテキストアドベンチャーゲームをプレイするうちに引き込まれ、彼女自身の秘密に迫っていく。

「そういう事だったのか!」目から鱗!で最初から読み返し、物語をかみしめることがあるが、まさにコレ!この面白さを上手く伝える事が出来なくて残念なのだが、12編の中で物語への引き込み方や技量が群を抜いているように感じた。さっそく彼の短編集を注文しちゃったよ。


アーネスト・クライン 序文
「リスポーン」桜坂洋
「救助よろ」デヴィッド・バー・カートリー
「1アップ」ホリー・ブラック
「NPC」チャールズ・ユウ
「猫の王権」チャーリー・ジェーン・アンダース
「神モード」ダニエル・H・ウィルソン
「リコイル!」ミッキー・ニールソン
「サバイバルホラー」ショーナン・マグワイア
「キャラクター選択」ヒュー・ハウイー
「ツウォリア」アンディ・ウィアー
「アンダのゲーム」コリイ・ドクトロウ
「時計仕掛けの兵隊」ケン・リュウ

※「本が好き!」の献本でいただきました。
http://www.honzuki.jp/

テーマ : SF小説
ジャンル : 本・雑誌

「オルタード・カーボン」ドラマ化

「オルタード・カーボン」がドラマ化され、Netflixで配信されていると知り、いつ見ようかと思っていたが、やっと時間が取れるようになってNetflixに登録。シーズン1の10話を一気に見てしまった。いやいや面白い!

で、原作が読みたくなって再読中。読み始めたばかりだけど、かなり原作通り。

「オルタード・カーボン」の後の2作はイマイチというか、「オルタード・カーボン」のインパクトが強すぎてそれを超えるものにならなかった。この3冊だけしか翻訳されていない。それほど小説家として執筆してる訳ではないのかな。ドラマ化で勢いづいて翻訳されないかな~

オルタード・カーボン

「ミラクル」辻仁成

ミラクル
少年アルはジャズピアニストのパパと旅をしながら生活をしている。アルはママを知らない。アルの出産と引き換えに死んでしまったからだ。ママの死を受け入れられないパパは「ママは世界中を旅して歌うシンガーなんだ。忙しいんだ。雪が降ったら帰ってくるよ。」と言う。

アルはママを探している。街に出てママを探す。
親子連れの女性に問う。「おばさんは僕のママじゃないですよね」
ある時は女性の後を付けて家に入り込み追い出される。

ママは「許してくれる人」だと聞き、婦人にいたずらをする。
そして「おばさんは僕を許してくれる?」と問う。

ある日、同じくらいの年頃の女の子に出会う。彼女は「あなたのママは死んでる。私もそうだった。ママにパパは生きてるって ずっと言われてた。」と言われるが、認めたくないアルは苦悩する。

そしてクリスマスイブの朝、その街に30年ぶりに雪が降った。「ママが帰ってくる!」とはしゃぐアルと、困ったなぁ…のパパ。その夜、奇跡が起こる…


辻さんの文章と望月通陽さんのイラストの組み合わせが大人の絵本といった感じで、ページを捲るごとに心に染み入ってくる。でも、感動した!まで感じられない荒んだ私の心。そういえば、本を読んで最後に涙したのはいつだろう…

読んだ時期が季節外れだったかな。この作品は冬に読んだ方が最後の雪のシーンにグッとくるだろうと思う。

テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

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プロフィール

mari

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    P・K・ディック、J・G・バラード、ウィリアム・ギブソン、小松左京、ポール・オースター、F・カフカ、安部公房 etc…
    【好きな漫画家】
    ひろき真冬、小畑健、ゆでたまご、浦沢直樹、松本零士、手塚治虫、山根和俊、etc…

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