「都市と都市」チャイナ・ミエヴィル

都市と都市
SFやファンタジーなどの賞をいくつも受賞しており、紹介文にはディック、カフカなんて言葉も並んでいるので私好みかも!と読み始めた。

女性の死体が発見され、警察が捜査に乗り出すところから始まる。普通の小説?と思いながら読み進めていくと、どうも様子がおかしい。

死体が発見されたのが「ベジェル」。隣接する「ウル・コーマ」で殺害され、ベルジュに運ばれてきたらしい。ふたつの都市国家はモザイク状に国境が入り組んでおり、領土を共有している「クロスハッチ」と呼ばれる複雑な地域もある。

敵対している国同士なので、相手国の市民や街並みを「見ない」ようにしなくてはならない。介入もしてはいけない。「クロスハッチ」している地域は、車の運転の際に見てはいけない車も避けなくてはいけないので大変そう。混乱する!でも、彼らは訓練しているので上手く避けながら行動できるのだ。

故意に見てはいけないものを見たり、勝手に相手国に入ったりなどの違反すると「ブリーチ」されてしまう!「ブリーチ」は謎の組織??。天使の大群が現れて、ピカッ!と違反者を処分し、翼を翻して消え去る…みたいな感じ?と思ってたら、そこまでファンタジーではなかった。

舞台はインターネットも使える現代で、この2つの国以外はアメリカやヨーロッパなど普通に存在している。ただし、この2つの国を訪れるためには厳しい試験を受けなくてはいけない。場所的にはヨーロッパのバルカン半島あたりらしいが、あくまで架空の国だ。

世界観がつかめてやっと楽しくなってくる。
殺人事件解決のため、ベジェルのボルル警部がウル・コーマに入国することになる。ここまで読んでやっと半分!

ボルル警部は、ウル・コーマのダット警部と協力して捜査を始めるのだが、殺された女性が調べていた都市伝説的な「オルツィニー」という第三国の存在が浮かび上がる。行方不明者が出たり、謎の電話がかかってきたり…謎が深まるばかり。



読みなれた作家ではないので、手探りしながら読み進めていくのが禁書を読んでいるような感覚でドキドキ(本著に禁書扱いの本が出てくる)。
今年一番刺激的な作品かも!ミエヴィルの他の作品も読んでみたい。

最初は印象のなかった表紙のイラストが、読後にグッと迫ってきた。なるほど。

ディックでもカフカでもなかった。
しかし、驚愕の小説であることは間違いない。

テーマ : SF小説
ジャンル : 本・雑誌

「紙の動物園」ケン・リュウ

紙の動物園
中国系アメリカ人であるケン・リュウ氏。
少し前から話題になっていたので興味があった。

先日、SFアンソロジー「スタートボタンを押してください」に収録されていた「時計仕掛けの兵隊」で初めて彼の作品に触れた。感触が良かったので短編集を購入。

表題作の「紙の動物園」でグッときた!と思いきや、読み進むにつれてテンションだだ下がり…。過去のアジアの紛争や人種差別などが物語に盛り込まれおり、それ自体は興味深いテーマではあるのだけれど、SFとして娯楽として楽しもうと思っていた読書だったので暗い気持ちになってしまった。SFじゃないよね?と思う作品もあったが、期待し過ぎたかな?

中国や台湾、日本などが出てくるのは、親近感を感じる部分と過去の傷をほじくり返されるような痛みが伴う。彼なりの問題提起でもあるのかしら。


「紙の動物園」

父はアメリカ人、母は父が買った中国人、そして息子。
泣き虫だった彼に母は包装紙で折り紙を作ってくれた。母が折り紙に命を吹き込むと、魔法のように紙の動物たちが動きだすのだ。

しかし、年頃にもなると母親の面影がある自分の姿や、アメリカでの暮らしに馴染めない母にイラつき、しだいに距離を置くようになる。関係が修復しないまま母が亡くなり、仕舞われていた折り紙を取りだしたところ…

最後の仕掛けにやられた。
いつの時代もどこの国でも母が子を思う気持ちは変わらないのだね。


「月へ」
木を登って月に向かう男が出てきてお伽話かと思いきや、中国人の難民申請を担当する女性弁護士が登場。中国人たちは申請が通るように可哀そうな経歴を創作する。月をアメリカに例えているのか。舌がザラザラするような読感。


「結縄」

結縄(けつじょう)とは、縄の結び方で文字や数字などを記録する古代からの記録方法。
それをSFとして利用するアイディアは面白いと思ったが、山奥でヒッソリと暮らす人々が先進国の心無い人たちに振り回され利用され…良く行われていることなのかも知れないけど、読んでいい気分はしない。


「太平洋横断海底トンネル小史」
太平洋戦争が起こらなかった「if」の物語。
アジアとアメリカを結ぶ海底トンネル!これはロマンがあっていいわ~。トンネル工事の為、人々が動員され経済効果も抜群!戦争も回避されたが、その裏には隠ぺいされた事件があった…


「心智五行」
この短編集の中で一番SFらしい。
宇宙船の事故で生き残ってしまった宇宙飛行士の女性。ある惑星に不時着すると原始的な生活をする先住民がいた。無菌で生きていた彼女はバクテリアや菌に侵されて寝込んでしまう。青年に看病をしてもらい、回復し、次第に心を通わせていく。

五行(木・火・土・金・水)の治療とか、バクテリアが喜怒哀楽に影響するというのも興味深い。色々詰まってる


「愛のアルゴリズム」
子供を失った女性がAIを搭載した人形の製作に奮闘しているうちに、人間もAIと同じようにアルゴリズムに従っているのではないか?どこに違いがあるのか?と疑問を持つようになり…。

テッドチャンにも似たような短編なかったっけ?と思ったら、著者注意書きにテッドチャンに影響を受けたと書かれていた。


「文字占い師」
台湾に引っ越してきたアメリカ人家族。父は情報部員。娘は学校でイジメにあっており、新しい生活に馴染めていない。そんな中で出会った文字占い師の老人と少年と親しくなるのだが…。

最後の作品で暗い穴に落とされた気分。救いのない物語は重い余韻に引きずられるので、覚悟した時にしか読めないよ。

同じ中国系で比べられることが多いであろうテッドチャンは、クールな中にも温かな希望の光が感じられるのだが、ケンリュウはこの短編集に限っての感想だけれど、暗くて重くてシンドイ。が、もう少し読んでみたいと思う魅力もある。

テーマ : SF小説
ジャンル : 本・雑誌

「スタートボタンを押してください (ゲームSF傑作選)」

スタートボタンを押してください (ゲームSF傑作選)
アンソロジーの良いところは、読んだことのない作家との出会いやバラエティーに富んだ様々な作品を1冊で楽しめるところだ。

ここでの「ゲーム」はTVゲーム、ネットゲーム。テーマがテーマなだけに巨匠やベテラン作家でなく、若い(といっても40代前後の)未翻訳のフレッシュな作家さん達が多い。ゲームに親しみがある方が、物語に入りやすいかもしれない。


12編の短編が収められている。気に入った作品をご紹介。

「リスポーン」桜坂洋
桜坂洋は「All You Need Is Kill」が漫画化、映画化されたのをきっかけに知ったのだが、作品を読んだのは初めて。

深夜、牛丼チェーン店で勤務していた男が強盗に殺されてしまうところから始まる。死んだはずの男の意識が強盗に移ってしまう。その後も殺される度に男の意識だけが移動してゆく…

日本人作家という安心感もあるが、全作品読み終わって振り返ると異質さも感じる作品。

「1アップ」ホリー・ブラック
ネットゲームの仲間が死んだことをきっかけに、彼の葬儀で初めて顔を合わせた3人。部屋を訪れると、彼の作ったテキストアドベンチャーゲームを発見する。プレイしながら死の真相を探り出す。謎解きのようなスリリングさもあり楽しめた。

「NPC」チャールズ・ユウ
NPCとはノンプレイヤーキャラクター。プレイヤーが操作しないキャラクターのことだ。資源採集を行うだけのNPC男が主人公。注目されない地味なキャラの視点はNPCが分かる人にはニヤリとしてしまうだろう。

「リコイル!」ミッキー・ニールソン
FPS(シューティングゲーム)ファンの男が主人公。友人のコネを使い、深夜にゲーム開発会社でテスト版のゲームをしていると 強盗?武器を持った不審な男たちがやってきて…。ゲームをプレイしているみたいに、いつ見つかるか、撃たれるか?!ドキドキハラハラさせられた。

「キャラクター選択」ヒュー・ハウイー
夫が仕事に出ている間、こっそりとゲームをしている妻。ある日、早く帰宅した夫に見つかってしまうが、咎められるどころか妻がゲームに興味を持ってくれたことに喜ぶ夫。FPSゲームなので撃ちまくって得点を稼ぎ、目的の場所まで移動して任務を完了させるのだが、妻のやり方は違っていた。彼女は大した武器を装備せず、代わりに大量の水を運んだ先は…。こういうゲームの楽しみ方って好き!共感できる人もいるのではないだろうか。

「ツウォリア」アンディ・ウィアー
「火星の人」のアンディ・ウィアーのショートショート。プログラムが自我を持ち、世の中を良くしたいと言い出した。主人公を「主さん」、自分のことを「漏れ」と呼ぶ。ウィアーらしい軽快さとユーモアにニヤニヤが止まらない。

「時計仕掛けの兵隊」ケン・リュウ
以前から興味のあったケン・リュウ。読むのを楽しみにしていた。
バウンティ・ハンターの女が、捕えた男が作ったテキストアドベンチャーゲームをプレイするうちに引き込まれ、彼女自身の秘密に迫っていく。

「そういう事だったのか!」目から鱗!で最初から読み返し、物語をかみしめることがあるが、まさにコレ!この面白さを上手く伝える事が出来なくて残念なのだが、12編の中で物語への引き込み方や技量が群を抜いているように感じた。さっそく彼の短編集を注文しちゃったよ。


アーネスト・クライン 序文
「リスポーン」桜坂洋
「救助よろ」デヴィッド・バー・カートリー
「1アップ」ホリー・ブラック
「NPC」チャールズ・ユウ
「猫の王権」チャーリー・ジェーン・アンダース
「神モード」ダニエル・H・ウィルソン
「リコイル!」ミッキー・ニールソン
「サバイバルホラー」ショーナン・マグワイア
「キャラクター選択」ヒュー・ハウイー
「ツウォリア」アンディ・ウィアー
「アンダのゲーム」コリイ・ドクトロウ
「時計仕掛けの兵隊」ケン・リュウ

※「本が好き!」の献本でいただきました。
http://www.honzuki.jp/

テーマ : SF小説
ジャンル : 本・雑誌

「スターシップ・イレヴン(上)(下)」

スターシップ・イレヴン(上)
スターシップ・イレヴン(下)
 SF好きを公言しているけれど、スペースオペラは好んで読むことが少ない。いつぶりだろう…もう古典SFくらいしか読んでないかも。最近のスペースオペラはどうなってるのかしら。作者のS・K・ダンストールは姉妹の合作ペンネームで、今作でデビューとのこと!


「ライン」という新しいエネルギー源が発見され、ラインを動力にして人類は超高速で銀河系を移動できるようになった。ラインを修理したり調整することの出来る者はラインズマン呼ばれており、主人公のイアンは数少ない優れた10のラインズマン。他のラインズマンと違って彼は歌いながらラインを修復する変わり者として扱われている。ちょっと頼りない弱気な青年。そんな彼が突如現れたエイリアン船を調査するため ランシア帝国の皇女ミシェルに強引に雇用契約を結ばされる。

ラインズマン同士の対立、政治勢力争いなどの中でラインの秘密やエイリアン船のことが明らかになっていく。

イアンのラインズマンとしての能力も開花され、ラインの意識が理解出来たり、ラインを通じて宇宙船を操作しちゃったりするのだ。何でも出来ちゃうズルい魔法みたいな能力なんだけど、歌い過ぎると声が出なくなっちゃう。万能ではない。

イアンがラインに歌う美しい歌声が耳に響いてくるような錯覚に陥る。ラインたちはイアンに歌ってもらうのが好きで、構って欲しがる可愛い奴ら。でもほどほどにしないと体に負担が大きい。頻繁に心臓発作で倒れたり具合悪くなっちゃうイアン。頑張れ!

劣等感の塊で、緊張したりストレスを感じると汗臭さが気になっちゃってフレッシャー(シャワー)を浴びたい浴びたいと言ってるイアン。そんな彼が居場所を見つけてラインズマンとしての地位を確立させていく姿は、思わず応援したくなってしまう。

そして敵味方問わずキャラが魅力的。敵役は「皆殺しにしろ!」なんてヒール全開で分かりやすいし、強くてカッコいい女性兵士を始め、皇女のミシェルなど女性が活躍しているのも痛快だ。


なんと3部作の続編があるとのこと!早く翻訳して欲しいな~。文庫本の上下巻で、1冊1000円はちょっと高いなぁ…と思っていたけど、続編が出たら読みたいから買っちゃうかも。最近、文庫本も高価になったな。

※「本が好き!」の献本でいただきました。
http://www.honzuki.jp/book/262950/review/201909/

テーマ : SF小説
ジャンル : 本・雑誌

「世界の終わりの天文台」リリー・ブルックス=ダルトン

世界の終わりの天文台
ある日突然、戦争が始まる?!と、北極の天文台にいた人々が撤収を始める。天文学者の年老いたオーガスティンは、反対を押し切り残ることに。謎の少女アイリスと2人きりの生活が始まる。真っ白な雪の世界、幻想的なオーロラ、時折見かける動物たち。極寒の北極圏の描写がとても美しい。

一方、木星探査を終えて帰還中のクルーたち。地球との交信が途絶えてしまい、不安の中で地球に向かっている。機材トラブルが起きたり、希望の見えない帰還に乗組員たちの精神状態も不安定に。足元のない宇宙での孤独はいかほどか…。


2つの物語が少しづつ絡まりを見せていくのだが、淡々と静かに語られているだけ。家族や友人、会社の同僚だけでなく、あらゆる地球上の人々を失う喪失感、孤独や不安…。北極圏の短い夏と白銀の景色、色を失ったような宇宙を漂っている不安定さ。あまりの静けさに胸が締め付けられた。

最後の最後で「え!?」という会話があり、謎が解けた!!。いや解けない(笑)。謎が深まるばかり…。もう絶望しかなさそうな地球なのに、何となく希望を感じられるようなラストで幕を閉じる。


パラパラと読み返しながら、もやっとした余韻に浸る。この余韻は嫌いじゃない。ジャンルとしてはSFなのだろうけれど、「SF」を期待しているとガッカリしてしまうかも。SFに拘らず、謎は謎のままで、一つの物語として楽しむのが良いだろう。


「きょうで世界が終わるなら、あなたは誰と過ごしたい? 」
やっぱり家族かなぁ~。

「本が好き!」の献本に当選して、本をいただきました。

テーマ : SF小説
ジャンル : 本・雑誌

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プロフィール

mari

  • Author:mari
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    P・K・ディック、J・G・バラード、ウィリアム・ギブソン、小松左京、ポール・オースター、F・カフカ、安部公房 etc…
    【好きな漫画家】
    ひろき真冬、小畑健、ゆでたまご、浦沢直樹、松本零士、手塚治虫、山根和俊、etc…

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